不器用のススメ

by Saito 2012年07月2日

不器用と器用

「自分、不器用ですから」

どこかで一度は耳にしたことのあると思います。高倉健さんの有名な台詞ですね。朴訥な健さんのキャラクターと相まって、不器用なことの格好良さみたいなものをどこか感じてしまいます。言葉として「不器用」より「器用」な方が、当たり前のように良いはずなのですが、この台詞に感じる魅力は何なのでしょうか?何でも器用にこなしてしまう、そんな人の方がスマートで格好良いはずなのに。

ジャンゴ・ラインハルトという人物

私の好きなギタリストにジャンゴ・ラインハルトという人がいます。この人はキャラバンに乗って移動しながら生活する、いわゆるジプシー(ロマ族)出身のギタリストです。ある時、そのキャラバンが火事にあってしまい、彼は左手に大変な火傷を負ってしまったそうです。演奏家として思うように演奏出来ないというハンデを抱えてしまったのですが、後にスウィング・ジャズとロマ音楽を融合させた「ジプシー・スウィング」というものを生み出しました。今、残っている音源からも、独特の素晴らしい演奏を聴くことができます。

不器用さの魅力とは

そんな彼ですが、果たして器用だったのでしょうか?ある意味ではそういった見方もできるでしょうが、やはり私は不器用さの方が強く感じます。ギターを弾く事を無しに生きていくことは出来なかったように思うのです。「好きだから」という理由だけでもなく、「これしか出来ないからやっている」という気概をどこか感じます。そう思うと古今東西、その作品や事歴が残っている人達は、皆そうだったように思えてきます。ゴッホしかり、ベートーベンしかり。またそういう気概が、時代を超えて人を惹きつけていくものになってゆくのかなと。決して丸くはない。歪なものに映るかもしれない。「自分、不器用ですから」「自分これしか出来ませんから」そんな心の声が聞こえてきそうな気がします。